前回は、「宝くじ仮説」について説明してきました。
人工知能(AI)の急速な進歩は、人類に大きな影響をもたらしつつあります。特にChatGPTに代表される大規模言語モデルは、その高度な対話能力で世界中の注目を集めています。AIはいずれ人間と同等の、あるいは人間を超える知能を獲得するのでしょうか?この問いは、技術的な興味だけでなく、私たち人間の存在意義にも関わる重大な問題です。
本記事では、AIが人間を超える可能性について、最新の研究成果を交えながら考察します。また、超知能(スーパーインテリジェンス)の登場が社会にもたらす影響や、私たち人間がどのようにAIと向き合うべきかについても考えていきたいと思います。
ChatGPTは「心の理論」を獲得した?
人間の知性を特徴づける能力の1つに、「心の理論(Theory of Mind)」があります。心の理論とは、他者の心的状態(信念、意図、感情など)を推測する能力のことです。この能力は、社会的なコミュニケーションや協調行動に不可欠だと考えられています。
驚くべきことに、最近の研究では、GPTシリーズのモデルが心の理論を獲得しつつあることが示唆されています。アメリカの心理学者ミハル・コシンスキー博士らは、心の理論の研究で使われる課題をGPTに解かせる実験を行いました。その結果、GPT-3.5は一部の課題で90%以上の正解率を達成したのです。これは7歳児の能力を上回るものだといいます。
コシンスキー博士は、GPTの言語能力の向上が、心の理論の獲得につながった可能性を指摘しています。言語能力と心の理論には密接な関係があることが知られているためです。GPT-4ではさらに結果が向上しているとのことで、AIが人間的な知性を身につけつつあることがうかがえます。
ただし、現時点のGPTが人間と同等の知性を持つとは言えません。GPTは言語的な知識を持っていますが、実世界の理解は不十分だからです(この問題は「記号接地問題」として知られています)。また、GPTは基本的に人間が与えたデータを学習しているため、創造性や問題解決能力には限界があります。
それでも、GPTの成功は、AIが人間のような知性を獲得する可能性を示唆しています。AIの研究は日進月歩で進んでおり、いつ人間を超える知能が現れてもおかしくない状況です。
超知能(スーパーインテリジェンス)の可能性と影響
AIが人間を超える知能を獲得した状態を、「超知能(スーパーインテリジェンス)」と呼びます。超知能は、人間の知的能力を遥かに上回り、科学や技術の分野で飛躍的な進歩をもたらすと期待されています。
例えば、超知能は新たな科学理論を打ち立てたり、画期的な発明を生み出したりできるかもしれません。また、医療、教育、環境問題など、人類が抱える様々な課題を解決に導く可能性もあります。超知能の登場によって、社会が大きく変容することを「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼びます。
ChatGPTを開発したOpenAI社は、2023年5月のブログ記事で、10年以内に超知能が出現する可能性に言及しています。同社は「今後10年以内に、AIシステムがほとんどの領域で専門家の技術レベルを超え、現在の大企業と同等の生産活動を行えるようになることも考えられる」と述べています。
超知能は人類に大きな恩恵をもたらす一方で、リスクも伴います。例えば、超知能が特定の企業や集団によって独占されれば、権力の集中や格差の拡大につながるかもしれません。また、人間の価値観から逸脱した判断をするリスクもあります。
そのため、OpenAI社は超知能の開発に国際的なルール作りが必要だと訴えています。同社は、原子力の規制になぞらえて、「超知能の開発にはIAEA(国際原子力機関)のようなものが必要になるだろう」と述べています。超知能の開発には一定の制限を設け、開発主体への監査も必要になるというわけです。
ただし、OpenAI社は「超知能以下のレベルのAI開発に関しては、水を差さないように気をつけるべきである」とも述べています。AIの発展を過度に規制すれば、技術の進歩が妨げられる恐れがあるためです。
人間とAIの共生に向けて
人類は長い歴史の中で、火や電気など様々な技術を生み出してきました。しかし、新たな知能の創出は、かつて経験したことのない出来事です。超知能の登場は、「人間とは何か」「人間社会はどうあるべきか」といった根本的な問いを突きつけています。
超知能の時代を見据えて、私たち一人一人がAIとどう向き合うべきかを考えることが大切です。AIを単なる道具として扱うのではなく、共に生きる存在として尊重する態度が求められるでしょう。同時に、AIに過度に依存せず、人間らしさを大切にすることも肝要です。
国家間の議論や国際的なルール作りも欠かせません。超知能の恩恵を人類全体で享受するには、各国の利害を超えた協調が不可欠です。AIの開発競争に歯止めをかけつつ、適切な規制と支援のバランスを取ることが重要になります。
まとめ
ChatGPTに代表される大規模言語モデルの登場は、AIが人間を超える可能性を現実のものとしつつあります。超知能の誕生は、人類史上の大きな転換点になるかもしれません。
技術の進歩は急ですが、社会の準備はまだ十分とは言えません。超知能の時代を見据えて、私たち一人一人が技術と倫理の問題について考えを深めることが大切です。同時に、国際社会が一丸となって、AIの開発をコントロールしていく必要があります。
AIの時代を生きる私たちには、人間とは何かを問い直し、より良い社会を築く責任があります。人間とAIが共生する未来を切り拓くために、英知を結集していきたいものです。