こんにちは。ChatGPTの仕組みについて解説するこのブログシリーズ、今回で第3回目になります。前回はTransformerというChatGPTの中核技術について、その基本的な動作原理を見てきました。
今回は、そのTransformerが言語以外のどのような分野に応用されているのか、そして今後どのような発展が期待されるのかについて、詳しく見ていきたいと思います。
画像認識と画像生成: Vision Transformer
Transformerは本来、言語処理のために開発された技術です。文章を単語に分割し、各単語をベクトルに変換することで、次に来る単語を予測するわけですね。実は、この基本アイデアは言語以外の分野にも応用できるのです。
例えば、画像をTransformerで処理したい場合、まず画像を小さな正方形のパッチに分割します。そして各パッチをベクトル化すれば、Transformerに入力することができます。つまり、文章を単語の連なりとみなすのと同様に、画像をパッチの連なりとして扱うわけです。
このアイデアを採用したのが、2020年にGoogleが発表した「Vision Transformer」という画像認識AIです。さらにVision Transformerは、画像とその説明文の関係性を学習することで、与えられたテキストに対応する画像を生成する、いわゆる「画像生成AI」としても利用できるのです。
音声処理への応用
画像と同様に、音声データもTransformerで扱うことができます。音声は通常、時間軸上の振幅や周波数の変化として表現されます。これを「スペクトログラム」と呼ばれる画像に変換し、パッチに分割すれば、Transformerに入力できる形式になります。
こうすることで、Transformerは音声データの時間的な変化パターンを学習し、音声認識や音声合成などのタスクに利用できるようになるのです。
タンパク質の構造予測とゲノム解析
Transformerの応用は、バイオインフォマティクス(生物学とコンピュータサイエンスを融合した研究)の分野にも及んでいます。例えばタンパク質は、20種類のアミノ酸がつながった鎖状の構造をしていますが、このアミノ酸配列から立体構造を予測することは容易ではありませんでした。
そこで、タンパク質全体を「文章」、アミノ酸を「単語」とみなしてTransformerに入力することで、立体構造の予測を行うことができるようになったのです。2020年にDeepMind社が発表した「AlphaFold2」は、このようなTransformerベースのタンパク質構造予測AIの代表例です。
また、DNAやRNAの塩基配列をTransformerで処理することで、遺伝情報の変異パターンなども予測できるようになってきました。2022年には、「GenSLMs」というTransformerベースの変異予測AIを用いて、新型コロナウイルスの変異予測が行われたという研究報告もあります。
AIの未来を切り拓くTransformer
このように、Transformerの基本原理である「対象を分割し、その関係性を学習する」というアプローチは、言語処理だけでなく画像、音声、バイオインフォマティクスなど、実に様々な分野に応用されているのです。
今後もTransformerのような革新的な技術により、AIはますます高度化していくことでしょう。ChatGPTに代表される言語AIは、その最先端の一例に過ぎません。しかし同時に、AIの基礎原理を理解することで、我々はAIをより適切に活用し、新たな発見や創造につなげていくことができるはずです。
Transformerが切り拓く、AIの未来。そこに無限の可能性を感じずにはいられません。
次は、そのTransformerと脳の記憶との関係について解説していきます。