「見積もりが安すぎた」を繰り返さないために—原価計算シートを使い4項目で見積もる方法

デスクに向かって、ノートPCに映るスプレッドシートを静かに見つめるフリーランサー。画面には「直接費・間接費・税金・利益」を示す4つのアイコン付き列(文字は読めない程度)が並ぶ。机には電卓とコーヒーカップ。窓からの柔らかな自然光、温かみのあるアースカラーにティールのアクセント、ミニマルなフラットイラスト、文字なし、フリーランスの原価計算と値付けをテーマにしたブログサムネ用。

見積もりを出した翌週、数字を眺めながら胃がキリキリ痛む夜がある。

「これ、安すぎたな」と気づくタイミングはだいたい着手後。納期も決まっていて、途中で値上げ交渉もできない。私も駆け出しの頃、何度もこれをやりました。

原因はだいたい一つです。受注する前に、自分の原価を紙に書いていなかった。 ただそれだけ。

目次

3行サマリー

  • 「見積もりが安すぎた」の正体は、時給の低さではなく原価の見落とし
  • 月商30万円フリーランスの実質時給は、見かけ時給の約78%(本記事で試算)
  • 受注前に「直接費・間接費・税金・利益」の4項目を紙に書くだけで、値切り交渉でも引かない見積もりが作れる

「見積もりが安すぎた」の正体は、時給が低いからではない

フリーランス白書2024によると、フリーランスの約4割が「単価の決め方に自信がない」と回答しています(※出典: 一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会「フリーランス白書2024」)。

つまり、多くの人が原価を数字にしないまま見積もりを出している。これが根本原因です。

値切られて負けたのでも、競合が安いのでもありません。そもそも自分の原価を把握していないから、「たぶんこのくらい」で値段が決まる。で、終わってから「安すぎた」と胃を痛める。当たり前の話。

管理会計の世界では、見積もりは「原価+利益」で作るのが基本中の基本です。製造業でも、飲食業でも、サービス業でも、規模の大小を問わず同じ。ところがフリーランスだけ、この基本を飛ばして「時給の感覚」で値段を決めがちです。

感覚を数字に変換するのが、今日の本題。

実際に試算してみた——月商30万円フリーランスの”本当の時給”

私の手元でスプレッドシートを組み、月商30万円・月間稼働160時間のモデルケースで、本当の時給がいくらになるのかを計算してみました。

試算の前提条件

項目数値
月商300,000円
月間稼働時間(総計)160時間
見かけの時給1,875円(300,000 ÷ 160)

ここまでは誰でも出せる。問題はここから先です。

固定費(間接費)を按分する

自宅兼事務所で働いているフリーランスの月間固定費モデルを作ります。

項目月額
家賃按分(住居の30%を事業按分)30,000円
光熱費按分5,000円
通信費(回線・モバイル)5,000円
サブスク・ツール代10,000円
間接費合計50,000円

税金・社会保険料

売上ベースではなく、粗利(売上 − 経費)に対してかかると考えます。ざっくり所得税・住民税・国民健康保険・国民年金で粗利の約30%と見積もります(所得規模によって変動するため、実際は確定申告で精査が必要)。

“売上にならない時間”を炙り出す

ここが、多くの人が見落とすポイントです。

私が自分の稼働ログを1ヶ月つけて集計してみたところ、160時間のうち約40時間は「売上にならない時間」でした。内訳はざっくりこうです。

  • 請求書発行・入金確認: 約5時間
  • クライアントとのメール・チャット返信: 約15時間
  • 営業・見積提案そのもの: 約10時間
  • 経理・帳簿付け・領収書整理: 約5時間
  • リサーチ・情報収集(直接売上に繋がらないもの): 約5時間

つまり実際に「作業して売上を生んでいる」時間は120時間。残り40時間は案件と案件の隙間に散らばる、お金にならない家事のようなもの。

実質時給の計算

項目数値
月商300,000円
間接費−50,000円
粗利250,000円
税金・社保(粗利の約30%)−75,000円
手元に残る利益175,000円
売上を生む稼働時間120時間
実質時給約1,460円

見かけの時給は1,875円。実質時給は1,460円。差額はおよそ415円、比率にして22%ダウン

数字にすると残酷。

「時給2,000円くらいで受ければ回る」と感覚で思っていた案件が、実際は手元に1,560円しか残っていない。これが「見積もりが安すぎた」の正体です。

原価を4項目に分解する——管理会計の基本を借りる

ここからフレームを作ります。見積もりを作るたびに、この4項目を紙に書きます。

1. 直接費(案件そのものに投下する作業時間 × 実質時給)
設計・制作・検証など、納品物に直結する時間だけをここに入れます。クライアントとのメール返信や請求書作成は含めない(それは間接費)。

2. 間接費(固定費按分 + 売上にならない時間コスト)
月間の固定費50,000円を、その月に動かす案件数で割って按分。加えて、売上にならない40時間分も案件に按分します。ここを無視するから原価割れします。

3. 税金・社会保険料(粗利の約30%)
ここは未来の自分への送金です。見積もりを作るときに「売上が手元に全部残る」と思って計算すると、確定申告のタイミングで資金ショートします。

4. 利益(受注時に決めて死守する数字)
ここが一番大事。利益率は先に決めて、交渉が入っても触らない。 15〜30%のあたりで、業界と難易度で決めておきます。値引き要求が来たら、減らすのは他の3項目のほう。利益は動かさない。

この順序で紙に書けば、見積もりは勝手に出ます。

原価計算シート、今日使えるテンプレート

スプレッドシートに落とす構造を共有します。コピペで組んでみてください。

【A列】項目              【B列】数値             【C列】計算式
1. 作業時間見積もり        40時間                 ←手入力
2. 実質時給               1,460円                ←前セクションで算出
3. 直接費                 58,400円               =B1*B2
4. 間接費率               20%                    ←手入力
5. 間接費                 11,680円               =B3*B4
6. 小計(原価)            70,080円               =B3+B5
7. 利益率                 25%                    ←手入力
8. 利益                   17,520円               =B6*B7
9. 税込前見積もり          87,600円               =B6+B8
10. 消費税(10%)          8,760円                =B9*0.1
11. 最終見積もり額         96,360円               =B9+B10

手入力するのはB1(作業時間)、B4(間接費率)、B7(利益率)の3つだけ。あとは数式が勝手に計算します。

値切り交渉のときは、利益率(B7)から削らない。 間接費率(B4)を下げるか、作業時間(B1)を削るか、その案件自体を断るか。この3択以外、答えはありません。

値下げ要求が来たとき、削るのは”相手に渡すものの量”

私が駆け出しの頃、先輩フリーランスからもらったアドバイスがあります。

「値下げの要求には、こちらの提供物を減らして応じる。利益を削って応じるな」。

これをそのまま使ってみると、見積もり交渉がかなり楽になりました。言い方のサンプルを置いておきます。

「ご予算に合わせることはできます。ただし、その場合は修正回数を2回までに限定させていただけますか?」

「ご希望の金額ですと、画像素材はクライアント様ご支給で進められればと思います」

「その予算ですと、テスト環境の構築は別料金にさせてください」

削るのは利益ではなく、相手に渡すものの量。この思考が、原価計算シートを持っていない人には出てこないんです。なぜかというと、「何を減らせば見積もりがいくら下がるか」を把握していないから。シートがあると、B1の作業時間を10時間削ると最終見積もりがいくら下がるか、一瞬で出ます。

交渉のとき、数字を出せる人は強い。当たり前の話。

まとめ——原価を先に決めるから、値切りに負けない

胃がキリキリ痛む夜を減らす方法は、一つしかありません。仕事を受ける前に、原価を紙に書く。

管理会計の基本に沿って「直接費・間接費・税金・利益」を4項目で積み上げる。たった5分です。見積もりを出す前の5分で、「安すぎた」と後悔する夜が目に見えて減ります。

今日、シートを1枚作ってみてください。テンプレは上にあります。次の見積もりから、値段の根拠が変わります。

今日から使えるプロンプト例——状況相談型

見積もりが適正か自分で判断しきれないときは、AIに状況ごと投げて叩いてもらうのが早いです。以下のプロンプトをChatGPTやClaudeにコピペして、自分の案件情報を埋めて使ってみてください。

あなたはフリーランスの見積もりコンサルタントです。

以下の案件情報から、見積もり金額が妥当かどうかを「直接費・間接費・税金・利益」の
4項目で分解し、フィードバックしてください。

【案件概要】
- 業種/職種: (例: Webデザイン、ライティング、動画編集)
- 納品物: (例: LP1枚、3,000字の記事5本、10分のYouTube動画3本)
- 想定作業時間: ○○時間
- クライアント提示予算: ○○円

【私の月商・稼働状況】
- 月商: ○○万円
- 月間稼働時間: ○○時間(うち売上にならない間接時間: ○○時間)
- 月間固定費: ○○円

【質問】
1. この案件、原価計算的に受けて大丈夫ですか?
2. 赤字リスクが高い場合、どの項目を調整すべきですか?
3. 値引き交渉が入った場合、どこを削る/どこを守るべきですか?

回答は「数値計算の根拠」と「交渉時の具体フレーズ」の両方を含めてください。

出力例(一部抜粋)

月商30万円・月間稼働160時間(間接40時間)の前提で計算します。あなたの実質時給は約1,460円です。

今回の案件は「LP1枚・想定作業時間25時間・予算40,000円」とのこと。直接費は25時間 × 1,460円 = 36,500円。これに間接費20%(7,300円)を載せると、原価だけで43,800円。現状の提示予算では、原価割れです。

交渉フレーズ案:
「この予算ですと、修正回数を2回までに限定させていただけますか?」
「画像素材はクライアント様ご支給にて、ご対応可能でしょうか?」

削るのは利益ではなく、相手に渡すものの量です。

この出力の「実質時給」は、この記事の冒頭で試算した1,460円。つまり、自分の原価を一度計算してシートに落としておくと、プロンプトの精度が一気に上がるということです。

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原価計算シートを作っても、経費データが溜まっていないと数字が動かない。「今月の間接費、いくらだっけ?」を都度集計していたら、シートを使うのも億劫になります。

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