ここでは全10回に渡って、生成AI「Claude」を使いこなすためのプロンプトエンジニアリングのコツを紹介しています。前回の第4回目は、「XMLタグで構造化された指示を与える」について解説してきました。
第5回目は「複雑なタスクをプロンプトチェーンで解決する」というテクニックを中心に解説していきます。
プロンプトチェーンとは?
プロンプトチェーンとは、あるプロンプトの出力を別のプロンプトの入力として使用することで、複雑なタスクを小さなサブタスクに分割し、Claudeを導いていくテクニックのことです。
単一のプロンプトでClaudeに複数のタスクを処理させると、まるでジャグリングのように、どこかでボールを落としてしまったり、個々のタスクのパフォーマンスが低下したりする可能性があります。そこで、プロンプトチェーンを使ってタスクをサブタスクに分割し、プロンプトを連鎖させることで、各ステップで最高の品質を確保できるのです。
プロンプトチェーンには、以下のような利点があります:
- 各ステップで生成される出力の精度と一貫性が向上する
- エラーが発生しやすい、または処理が難しい特定のサブタスクを切り離すことで、トラブルシューティングが容易になる
プロンプトチェーンを使うべきシナリオ
では、どのような場合にプロンプトチェーンを使うべきでしょうか。
まず、複数のステップを必要とするタスクです。例えば、トピックのリサーチ、エッセイのアウトライン作成、エッセイの執筆、フォーマットの調整など、一連の作業が必要な場合は、プロンプトチェーンを使ってタスクを分割することで、Claudeが各ステップに集中し、高いパフォーマンスを発揮できます。
次に、複雑な指示を含むタスクも、プロンプトチェーンが効果的です。1つのプロンプトに多くの指示や詳細が含まれていると、Claudeはそれらを一貫して理解するのが難しくなります。タスクを一連のサブタスクに分割することで、各サブタスクのパフォーマンスを向上させることができるのです。
また、出力の検証が必要な場合にも、プロンプトチェーンが役立ちます。例えば、Claudeにアイテムのリストを生成させた後、そのリストを再度Claudeにフィードバックし、リストの正確性や完全性を検証するよう求めることで、より高品質な結果を確保できます。
最後に、並列処理が可能なタスクにも、プロンプトチェーンは有効です。タスクに複数の独立したサブタスクがある場合、各サブタスクに対して別々のプロンプトを作成し、並行して実行することで時間を節約できます。
効果的なプロンプトチェーンのコツ
効果的なプロンプトチェーンを作成するには、以下のようなコツを意識しましょう。
まず、サブタスクをシンプルかつ明確にすることです。各サブタスクには、明確な目的とシンプルな指示を与えましょう。これにより、Claudeがタスクを理解し、実行しやすくなります。
次に、XMLタグを活用することです。入力と出力をXMLタグで囲むことで、データを構造化し、次のステップに引き継ぐ際に抽出しやすくなります。
プロンプトチェーンの実践例
それでは、プロンプトチェーンを使った具体的な例を見てみましょう。プロンプトチェーンは、一連のプロンプトを順番に実行することで、徐々に結果を洗練させていく手法です。
以下の例では、各プロンプトの役割を明確に定義し、XMLタグを使ってデータを受け渡しするフォーマットを統一しています。
キーワードを抽出し新たな文章を作る例
プロンプト1:キーワードの抽出
<document>
太郎と花子は、公園に遊びに行きました。
公園には大きな池があり、その周りを散歩しながら二人は話に夢中になっていました。
太郎が、「将来の夢は何?」と花子に尋ねると、花子は少し考えてから、「私は医者になって、病気で苦しんでいる人を助けたいの」と答えました。
太郎は花子の優しさに感心し、「いつか花子先生のもとで治療を受けられるといいな」と言いました。
</document>
この文章から、物語を作るのに使えそうなキーワードを5つ抽出してください。
キーワードのリストを<keywords></keywords>のXMLタグで囲んでください。
プロンプト1をClaudeに入力し、物語を作るのに使えそうなキーワードを抽出します。Claudeからの回答は以下のようになるでしょう:
<keywords>
1. 公園
2. 池
3. 将来の夢
4. 医者
5. 治療
</keywords>
次に、このClaudeの回答を使って、プロンプト2を作成します。
プロンプト2(プロンプト1の回答を使用):キーワードを使った新しい物語の作成
<keywords>
1. 公園
2. 池
3. 将来の夢
4. 医者
5. 治療
</keywords>
抽出したキーワードを全て使って、150字程度の新しい物語を作成してください。
物語を<story></story>のXMLタグで囲んでください。
プロンプト2をClaudeに入力すると、以下のような回答が得られるでしょう:
<story>
公園の池のほとりで、一人の少女が将来の夢について考えていました。
「私は医者になって、たくさんの人を治療したい」と心に決めた少女は、一生懸命勉強し、立派な医者になりました。
ある日、公園で出会った病気の少年を治療し、少年は元気になりました。
少女の夢は叶い、少年の笑顔を見て幸せを感じました。
</story>
出力を検証する例
プロンプト1:エラーのリストを生成する
<article>
私は、昨日の夜遅くまで仕事をしていました。
残業が続くのは体に良くないと分かっていますが、期限に間に合わせるためには仕方ありません。
でも、健康的な生活を心がける為に、できるだけ早く寝るようにしています。
私の仕事は、毎日がデスクワークなので運動不足になりがちです。
だから、出来る限り歩くようにしたり、休日にはジョギングをしたりしています。
</article>
記事内の文法的なエラーを指摘してください。エラーのリストのみを返答し、他は何も言わないでください。
文法的なエラーがない場合は、"エラーはありません"と言ってください。
プロンプト1をClaudeに入力し、文法的なエラーのリストを生成します。Claudeからの回答は以下のようになるでしょう:
1. 「仕方ありません」は口語的な表現なので、「仕方がありません」が適切です。
2. 「出来る限り」は、「できる限り」が正しい表記です。
次に、このClaudeの回答を使って、プロンプト2を作成します。
プロンプト2(プロンプト1の回答を使用):リストが網羅的であることを再確認する
<article>
私は、昨日の夜遅くまで仕事をしていました。
残業が続くのは体に良くないと分かっていますが、期限に間に合わせるためには仕方ありません。
でも、健康的な生活を心がける為に、できるだけ早く寝るようにしています。
私の仕事は、毎日がデスクワークなので運動不足になりがちです。
だから、出来る限り歩くようにしたり、休日にはジョギングをしたりしています。
</article>
<list>
1. 「仕方ありません」は口語的な表現なので、「仕方がありません」が適切です。
2. 「出来る限り」は、「できる限り」が正しい表記です。
</list>
リストに含まれていない記事内の文法的なエラーを指摘してください。
リストに含まれていないエラーがない場合は、"追加のエラーはありません"と言ってください。
プロンプト2をClaudeに入力すると、以下のような回答が得られるでしょう:
3. 「なりがちです」は口語的な表現なので、「なりやすいです」が適切です。
4. 「体に良くない」は、「健康に良くない」という表現の方が適切です。
この回答により、プロンプト1で見落とされていたエラーが新たに発見されました。プロンプト2では、プロンプト1の出力を利用しつつ、更なる改善点を見つけることができています。
これは、チェーンプロンプトの大きな利点の一つです。一度の処理では見落としがちなエラーや改善点も、複数のプロンプトをつなぎ合わせることで、段階的に洗い出していくことができるのです。
このように、プロンプト1の出力をプロンプト2の入力として使用し、更に検証や改善を加えていく過程を示すことで、チェーンプロンプトの有用性がより明確に伝わると思います。
プロンプトチェーンの活用で、Claudeの能力を最大限に
プロンプトチェーンは、複雑なタスクをサブタスクに分割し、Claudeのパフォーマンスを最適化するための強力な武器となります。
プロンプトエンジニアリングにおいて、タスクの分割と連鎖は極めて重要な概念です。プロンプトチェーンを効果的に活用することで、Claudeの能力を最大限に引き出し、より高品質な結果を得ることができるでしょう。
ぜひ、皆さんも自分のタスクにプロンプトチェーンを適用してみてください。Claudeとの対話が、より楽しく、実りあるものになることを願っています。
次回は、「Claudeに考える時間を与える」というテクニックについて解説します。お楽しみに!